8.新しく開発されたヒーリング手法
次の日、8月4日(土)は昨日と打って変わって少し暗い表情でCさんは来た。
ヒーリングで改善した身体が、夜には痛み出したという。激痛で布団もかけることができなかった。これは、よくある現象だ。
人の成長も、企業の成長も、ある種のバイオリズムをなしている。病気の痛みだって、繰り返す。重要なのは、全体としてよくなっているのか?悪くなっているのか?答えは、前者だ。
だから、まったく問題ないとミツさんは言っていた。ただ、Cさんは不安になっていた。
この日のヒーリングでは、ミツさんは直接手を触れてやっていた。正直、驚いた。病気の人にヒーリングするとき、絶対に触れてはいけないと教わっていたから。
エネルギーを流すと同時に、エネルギーを受け取ってしまうから。それが意味するのは、その病気の痛みをもらうということだった。それが、Cさんの表情を見てか緊急対応として手を当てていた。
さらに、はじめて見る類いのヒーリングがはじまった。ミツさんが、Cさんから1~2メートル離れたところからヒーリングをはじめた。Cさんの背後に立ったミツさんがパントマイムのように手を動かす。
すると、それに合わせるようにCさんの身体が引っ張られたり揺れたり。まるで気功師のようなヒーリングだった。それが終わって、Cさんは言った。
「まだ力が抜けないんです。痛みがさっきよりも増している…」
すると、ミツさんは言った。
「もう少しすると、痛みは引いてきます」
それからヒーリングを続けると、ミツさんの予想通り、痛みが引いてきた。まだ痛みがあると言っていたが、ミツさんはさらによくなるはずだと言った。Cさんには、また連絡すると話して帰ってもらった。
終わってからミツさんに聞くと、今までにないまったく新しい治療法だと。さらに、体外離脱でいくつも意識を分割して同時にヒーリングをしていたと。その分割した人数、48人。
48人ものミツさんが同時でヒーリングしたから、必ず改善するはずだと言っていた。
9.いざ、病気と対峙するとき
その日の夜、娘さんのMさんよりメールがあった。Cさんのヒーリング治療にあたることへの感謝が長く綴られていた。
「必ず、治します」
これまで50箇所以上の病院やクリニックをまわってきたが、そう言われたことはないと。それが嬉しく、心強いと言っていた。それでも、痛みが強いとCさんが落ち込むのでMさんが励ましているという。そして、こう書かれていた。
「私としては、前里先生がもうお手上げだ、と言われるまで、どれだけ時間がかかっても、そちらに通うよう、母をサポートするつもりです。」
前後の文面から、半年から1年は通い続けようという意思が感じられた。はじめてと言ったら失礼だが、この仕事の責任について実感した瞬間だった。
次の日の朝、メールを返した。そこにははっきりと、ミツさんから聞いたことを書いた。
「前里は、こう言っています。Cさんを治せるのは、うちしかない。」
ある場所でポロッと言った一言を僕は見逃さなかった。
以前、ミツさんが透視で確認したところ、今現在活動している世界中のヒーラーの中でミツさんがどの位置にいるのかを聞いたことがあった。
僕は世界一のヒーラーだと思っていたが、世界には優秀なヒーラーがまだ他にもいるということを、その話の内容から理解した。
それが、たったこの数か月間で、いろいろな状況があり、変化が起きていると。詳細については明かせないものの、Cさんにとっては最後の砦だと理解した。
だから伝えた。
8年間、どこに行っても改善しなかった病気が今、改善しつつある奇跡的なスピード。本当にこの病気を追い出すつもりなら、今がまさに勝負のときだと。
10.痛みの原因は、すべて時空の彼方へ
8月6日(月)、Cさんは心から明るい笑顔でやってきた。
2日前の段階でも、表情はよかった。Cさんとすれ違ったスタッフが、その表情から病気の方だとは分からなかったという。それが、さらに驚くほど笑顔だった。
聞くと、とにかく痛みがかなりなくなっているという。そして、カフェにいると知らない人が何人か話しかけてきたと。楽しそうな表情をしている。理由は、それしかなかった。
ミツさんは、また距離を置いた位置からのヒーリングをした。確認するように、いろいろなところに立ってヒーリングをしていた。終わってから、こう言った。
「かなりよくなっています」
脳・アストラル体・痺れ・振動数・不調和・電気の流れ…どこを見ても、よくなっているという。その改善は、はじめから比べると何と20分の1くらい。その劇的な改善の理由として、前日に言ったことが挙げられた。
「もう少しすると、痛みは引いてくる」
そのときが、来た。ミツさんは、何をやったのか?
それは、アストラル体と言われるエネルギー体にある「痛みの原因箇所」をすべてブラックホールに捨てたという。アストラル体には、イスのサイズほどの痛み矢を放つ空間がいくつかあり、そこから矢が放たれるように痛みがCさんに飛んでいたという。その痛みの原因箇所そのものを、ごっそり捨て去ったと。
実は、このときのヒーリングは、痛みをとるだけではなく昨日の治療後の経過をチェックするものだったという。すべてチェックした結果、それがやはりなくなっていたという。つまり、痛みが再発することはない。理論上は、そういうことだ。
あとは、そのようなスピリチュアル世界とこの世界には多少の時差があるから、時間の問題だと。または、まだ見つけていない原因があれば別で痛みが出る可能性があると。
どちらにしても、大きな痛みの原因はそのままブラックホールに捨て去った。
「気分は、どうですか?」
ミツさんがそう言うと、急にCさんは身体をくまなく手で触り始めた。そして、言った。
「あれっ?あれっ?あれっ?痛みが、ない。痛みが、なくなっている!」
Cさんは、驚いていた。しかし、それ以上に僕らは驚いた。Cさんが快適な身体を喜んだのではなく、痛みがなくなったことが困ったようだったからだ。
今まであった痛みが急になくなって、喜んだのではなく。大切にしているおもちゃをなくしたように、必死で痛みを探していた。
痛みがなくなったらそれでいいものを、あたかもないと困るかのように、探していた。僕たちは爆笑したが、Cさんは大真面目。不思議な光景だった。
望んでいた現実が手に入ったのに、今すぐにでも戻りたいと言っているかのようだった。少なくとも、潜在意識にはそのように聞こえている。
「フォーカスしたものを、ゲットする」
そういう、仕組みがある。痛みを探せば、痛みが戻ってくる。まさに、痛みを戻そうとしていた。
11.病気を治さない人の心理
痛みを探すCさんを見かねて、ミツさんは少し子どもっぽく笑いながら言った。
「もしよかったら、元の痛みに戻しますか?」
ヒーラーは、病気と痛みを消し去る。しかし、それができる言葉の裏には、意図したら病気を埋め込むこともできるということ。使い方次第では、毒にもなる技術なのだ。しかし、こう付け加えた。
「でも、それをやらないからこのヒーリング能力を授かったんですが」
ミツさんの精神性がヒーリング効果のバックボーンにあると分かるエピソードだった。結局、こういうことだ。
「痛みがある身体と健康な身体。どっちが好きですか?」
答えは、おそらくほとんどの人は一緒。だけど、身体は逆を表現することもある。人の心理は、難しい。ミツさんに痛みを戻すかと言われたCさんは、慌てるようにして言った。
「いやいやいや…大丈夫です大丈夫です!」
僕たちは、みんな爆笑した。Cさんの動きも声も表情も、すべてが元気だった。
ちなみに、対面ヒーリングの場合、東京本社にはミツさん以外にも数名のスタッフがいるときがある。僕以外にも、いるときがある。
これは、ヒーラーのヒーラー。つまり、ヒーラー前里光秀をサポートするヒーラーのヒーラー。ミツさん以外にも訓練を積んだヒーラーが、現場に立ち会ってミツさんをサポートする。ミツさんがヒーリングしている最中、ミツさんをヒーリングする。
実は前里光秀研究所のヒーリング効果の裏には、緻密な連携プレーがある。もちろん、これがなくてもミツさんが何でも1人でやってしまう。
ただ、ここにも組織力を活かしているということだ。